2009年6月1日(月)
『ローマ人の物語』を非常に面白く読んでいたが、『ローマ人の物語 34 迷走する
帝国(下)』 で、「あれっ?」と思う文章に出くわしたので書いてみる。
「しかし、私には、三世紀のローマ帝国を襲ったのは、とくに三世紀半ば以降の
ローマ社会を直撃したのは、平価切り下げが原因のインフレーションに少し遅れて
はじまった、デフレーションでもあったのではないかと思えてならない。」
『ローマ人の物語 34 迷走する帝国(下)』p57
これを読んで、インフレ(持続的な物価の上昇)の後にデフレ(持続的な物価の
下落)が来たってことかな?と思ったが、すぐその後で・・・
「もしもこの仮説が正しければ、三世紀後半のローマ帝国は、現代風に言えば、
景気の後退とインフレーションが同時に起こったという意味で、「スタグフレーション」
(stagflation)であろうか。」
同p58
とある。もしかして、著者の塩野七生氏は、デフレーションを「景気後退」という
意味と勘違いしているのか?
「インフレとデフレの同時進行によって、金利で生活する手段を奪われた元小金持。」
同p187
嗚呼、この文章で勘違いは決定的だ。インフレの対義語がデフレなのに、両者が
同時進行するだなんて。
話の大筋にはほとんど関係ない所だけど、傑作だけに惜しまれる瑕疵だと思う。
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2009年4月28日(火)
ダイアン・コイル『ソウルフルな経済学』で印象に残った文章。
多くのエコノミストが、ガルブレイスは私たちエコノミストの仲間ではないと
考える理由は、彼の方法論にある。(中略)
ポール・クルーグマンも素晴らしい著述家であり大衆に知識を広めており、
政治的立場はガルブレイスに似ている。しかし私たちの業界では、クルーグマンは
本物のエコノミストに数えられている。対照的に私たちの多くはガルブレイスを、
モデルを構築して対象を分析する人(モデラー)ではなかった、として一蹴する。
モデルは必ずしも数式のかたちでなくてもよいのであって、モデラーが世界を
理解するために使う思考のプロセスなのであり、わずかな変数と関係式によって、
私たちが観察する事象をすっきりと簡潔に説明しようと試みるのである。
(ダイアン・コイル『ソウルフルな経済学』p362)
俺は経済学の博士号を持ってはないけど、エコノミスト(つまり、モデルを構築
して対象を分析する人)ではありたいなあと思ってます。
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2009年3月10日(火)(その2)
下の話とはちょっとずれるけど、Evans, Guse and Honkapohja(2008),
"Liquidity Traps, Learning and Stagnation" European Economic
Review,では、Benhabib, Schmitt-Grohe, and Uribe(2001),
"The Perils of Taylor Rules" , Journal of Economic Theory,に
適応的期待を入れたモデルで、大きい負の需要ショックがある場合は
流動性の罠にはまるのを避ける為に金利低下だけじゃなくて財政支出を
一発かませよ、と主張している。まあ、今ははまっちゃった後の話が
問題になっているんだけど、参考まで。
ちなみに、この論文は武藤一郎「適応的学習と金融政策」で知った。
素晴らしいサーベイです。
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2009年3月10日(火)(その1)
(3月13日に一部追加・修正しました)
何やら、今頃になってクルーグマン変節か!ということが話題になって
いるようですね。俺には、何でクルーグマンの発言がそういう風に
受け取ってしまうのかがよく分からん。クルーグマンが政府支出を強く
推奨している論文(日本語訳)に
だって金融政策の有効性(現在と将来の
貨幣供給の増加に信用のおけるコミットを行うこと、つまりはインフレ・
ターゲッティング政策ね)は書いてあるし、矢野さんのこの素晴らしい
整理からもそれは明らかだ。それらを見て分からん奴って(以下略)。
ただ、上記の論文を読んでみて、クルーグマンは10年前の日本の時は
なぜ金融政策を強く薦めて、今回のアメリカについては財政政策を強く
薦めるのか、その違いは何か、ということはやはり引っかかっていた。
で、結局それは経済状態の違いによる、ということだろうけど、
ある時には財政政策の方がより有効で、ある時には金融政策の方が
より有効、ということがモデルで示せないかなあってぼんやり考えてた。
日本の場合、やはり累積政府債務の問題が大きな制約になっているはず
なんで、それを組み込んで。
ちなみにクルーグマンの上記のモデルは中途半端な形で終わっていて、
財政支出の有効性は限界費用の図だけで説明しているような気がする
(きちんと書いたバージョンを作るつもりってあるけど、まだなのかなあ)。
そんな中、意外と俺の修論のモデル(=小野モデル変形バージョン)が
使えるんじゃないか、と妄想していたのが1月頃(仕事から帰ってきた
深夜、風呂入りながら疲れた頭で考えてただけだけど)。そのモデルは、
不完全雇用状態も扱えるし、累積政府債務やシニョリッジだって入ってる。
ゼロ金利ってことは貨幣の限界費用がほぼゼロってことだけど、そう
いった経済状態の時、例えば2%程度のインフレ率が実現するように貨幣
供給を増やし続けるより、財政支出の方が完全雇用を実現するのには
効果がある、ってこともあり得る。
もうちょっと具体的に書いておくと、小野モデルで言うl曲線はゼロ金利って
ことは名目利子率ゼロ近くでほぼフラットになるってことだろう。
その時は貨幣供給量自体の増加は経済に影響を与えない(名目利子率が
ゼロ以下になれず、l曲線が右シフトしない)けど、財政支出増加や貨幣
成長率の増加はπ曲線を上方シフトさせることができる。それが雇用・
生産量に与える効果は、l曲線が立っている時よりも大きくなる。問題は、
財政支出増加と貨幣成長率とでどちらが効果があるかだけど、この
モデルでは、財政支出増加が物価上昇に与える影響が大きいほど
(つまり、価格調整関数の導関数が大きいほど)その効果が大きく
なるので、その辺りの関係に依存してくる。今年はこのネタで何か
書いてみようか・・・。
ただ、結局のところは上記のようなパラメータの大きさの違いに帰着
しちゃうんで、それもつまらないなあ、と思いながら、例によって年度
末で仕事が忙しくて手付かずになっていたところ、最近になってこの
ネタでネット界が盛り上がっているので、驚いた次第です。今日ちょっと
した山を越えたので、久々に書いてみました。
ちなみに、俺は上のようなことを考えていたので、このエントリーには
かなり共感する。
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